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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)259号 判決

控訴人(原告) 小日向市郎 外一名

被控訴人(被告) 大門土地区画整理組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(控訴人ら)

一  原判決主文二ないし四項を取消す。

二  以下の裁判を求める。

(一) 主位的請求

1 次の各処分は無効であることを確認する。

(1) 被控訴人が控訴人小日向市郎に対し昭和四六年六月二日付けでした別紙物件目録記載(一)の各土地についての仮換地指定処分

(2) 被控訴人が控訴人本橋武雄に対し昭和四六年六月二日付けでした別紙物件目録(二)の各土地についての仮換地指定処分

2 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(二) 予備的請求

1 次の各処分を取消す。

(1) 被控訴人が控訴人小日向市郎に対し昭和四六年六月二日付けでした別紙物件目録記載(一)1ないし3、9ないし15、19についての仮換地指定処分

(2) 被控訴人が控訴人本橋武雄に対し昭和四六年六月二日付けでした別紙物件目録記載(二)10についての仮換地指定処分

2 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

控訴棄却の判決を求める。

第二当事者の主張

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり附加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、引用する。

(控訴人らの主張)

一  公共施設管理者負担金の額について被控訴人が内部的に決定することは法一五条五号の「費用の分担に関する事項」に該当するし、被控訴人の定款第二章費用の分担の項でも収入金の一部として公共施設管理者負担金をあげているから、公共施設管理者負担金を被控訴人組合内部で決定するについては、費用の分担に関する項目である賦課徴収金や保留地処分金の決定と同じく定款の定める手続に従い決定されるべきものと思料されるところ、被控訴人組合の定款においては公共施設管理者負担金の決定について何らの定めもないから、公共施設管理者負担金の決定については定款の公共施設管理者負担金の実質的変更として総会の特別決議が必要である(法三四条二項)し、法三一条四号、五号又は九号の規定の類推適用によつても、公共施設管理者負担金についての被控訴人組合内部での確定については、総会又は総代会の決議が必要であると思料される。

二  昭和四七年六月二一日被控訴人から控訴人本橋武雄に送付されてきた事業計画書によると、公共施設管理者負担金の総額は五億九五三五万四〇〇〇円とし、内訳として用地費五億二〇一二万八三一〇円、移転費五七八八万五五五八円とのみ記載されており、用地費、移転費とも概略的なものということができる。それ以前のものとしては、総額五億八九二六万五〇〇〇円とされ、用地費は前記と同様であるが、移転費は五一九七万三六九八円とされていて、いずれにしても「概略的計画」の域を出ていない。

三  被控訴人が昭和四三年一月一一日建設大臣との間で本件公共施設管理者負担金につき締結した覚書の内容は、一筆ごとの建物、工作物等の移転料の合計五一九七万三六九八円と一筆ごとの用地費の合計額五億二〇一二万八三一〇円と事務費一七一六万二九九二円の合計であつて、その内容は詳細である。

しかし、右覚書締結時の段階においては、被控訴人において仮換地予定地の指定についての図面すらできていないのであるから、その内容が詳細であつても真実に合致するものでないことは明らかである。

国道一七号線の道路用地に土地、建物を有する者にとつての関心事は、事業計画に記載された概略的金額ではなく、個々の土地、建物についての用地費並びに移転補償等であることは当然であるし、公共施設管理者負担金の取決めにおいても個々の土地、建物の金額を無視し、これを一括して把握することは概略的にすぎ、妥当な方法でないことはいうまでもない。

被控訴人が個々の土地の用地代及び建物移転費を建設大臣との間で取決めてしまえば、その結果は国道一七号線の用地内に土地、建物を有する控訴人らを含む個々の組合員の用地代、建物の移転費に直ちに影響するものであり、とりも直さず個々の組合員の財産的出捐を直接規制するものである。

従つて、個々の組合員の財産の消長に重大な影響を及ぼすことが明らかな公共施設管理者負担金決定の被控訴人内部における検討手続として、本来は定款に記載されなければならないものであり、この決定手続が定款に定めのないときは、公共施設管理者負担金の金額そのものが、定款の費用の分担に関する変更の手続と同じく法三四条二項の総会の特別決議の手続と同一の慎重な方法によるべきである。

四  被控訴人組合が建設大臣との間に前記の覚書を締結した前後の組合内部の手続をみるに

1 原判決は「被控訴人は公共施設管理者負担金の増額(従前の設立時の事業計画では金二億二〇七四万円となつていた)と細目等について建設大臣と折衝を続け、一応の成案を得、昭和四二年一二月二六日の総代会について右案についての説明をした」と認定しているが、乙第二〇号証の議事録によると、当日総代会で検討されたのは「公共施設管理者負担金使用に伴い会計規程一部改正すること」であり、議案として記載された文言は「会計規程一部改正の件」であつて、公共施設管理者負担金の内容について具体的に検討されたものでないし、その説明があつたものでもない。

2 原判決の認定によると、被控訴人は昭和四三年三月二二日の総代会の議決により事業計画を変更した(その変更について東京都知事の認可を受けた)ことになるが、乙第二〇号証の一から三によると、当日総代会で決議した内容は、用地費金五億二〇一二万八三一〇円、移転費金五一九七万三六九八円、事務費金一七一六万五九九二円と概略的総額のみであり、しかも被控訴人がその後変更した事業計画をタイプし公けにしたものの中には右の事業計画のうちの事務費が欠けている(従つて、用地費と移転費の合計は金五億八九二六万五〇〇〇円とならない。)し、用地費、移転費の算出方法は個別的でなく、両者とも単価は平均的なものとして計算され、その計算の結果も誤つている。

右のような事実の下では、何が決議され、何について東京都知事の認可を得たのか、疑問視せざるを得ないものがある。

五  原判決は、被控訴人組合では事業計画において公共施設管理者負担金を決定すれば改めて他の議決機関の決議を経ることなく、理事長において右金額について公共施設の管理者と適法に負担金について契約締結をなし得ると判断している。しかし、事業計画として決定されていることをもつて、その後の議決が不要との結論は正しくない。乙第二二号証の三によると、被控訴人の総代会決議は保留地処分金として金一〇五〇万円という数値をあげているが、その根拠としては990m2×約10,590=10,500,000と記載されているのみであり、結論の数値も概略的である。万一、被控訴人の執行部において、右数値は右総代会において議決されたから、更なる議決が不要として保留地を処分したとすれば、その手続が誤つていることは明らかである。

(被控訴人の答弁)

控訴人らの主張はすべて争う。

第三証拠〈省略〉

理由

当裁判所もまた、当審において取調べた各証拠を斟酌しても、控訴人らの主位的請求は理由なきものとして棄却すべく、予備的請求は不適法として却下すべきものと判断する。その理由は、次に附加するほか、原判決理由の関係当事者部分と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人らの当審における主張一について

控訴人らは、公共施設管理者負担金の変更については総会(総代会)の特別決議(法三四条二項)が必要であると解すべき旨主張するが、右負担金の額及び負担方法については事業計画においてこれを定めれば足りるのであり(法一一九条の二第二項)、その変更は事業計画の変更によつてなすべきところ、事業計画の変更のうち法三四条二項により特別決議の対象となるのは施工地区の変更若しくは工区の新設、変更又は廃止に限られる(令二条二項)のであつて、控訴人らの右主張は失当である。そして、原審証人小日向恒男の証言により成立を認める乙第二二号証の一ないし三によれば、被控訴人組合においては、昭和四三年三月二二日の第四回総代会において本件公共施設管理者負担金の額を五億八九二六万五〇〇〇円に増額する旨の議決がなされたことが認められ、その間に手続上の違背は認められない。また、控訴人らは、公共施設管理者負担金の確定については法三一条四号、五号又は九号の類推適用により総会(総代会)の決議が必要である旨主張するが、右負担金の額等の変更は事業計画の変更として総会(総代会)の議決を経るべきものであることは前記のとおりであつて、法三一条四号、五号又は九号が類推適用されるものではないから、控訴人らの右主張も理由がない。

二  同二について

控訴人らは、本件公共施設管理者負担金の決定は「概略的計画」の域を出ていないから違法である旨主張するが、事業計画において公共施設管理者負担金の額を定めるについては、その総額を確定すれば足りると解されるので、控訴人らの右主張は失当である。

三  同三について

控訴人らの主張は、要するに、公共施設管理者負担金の決定については総会(総代会)の特別決議(法三四条二項)と同一の慎重な手続を経るべきであるというにあるが、右負担金の変更は事業計画の変更によるべきであり、その変更につき総会(総代会)の特別決議を要するものでないことは前記のとおりであるから、控訴人らの右主張は採用することができない。

四  同四について

控訴人らの主張は、要するに、本件公共施設管理者負担金の増額に関する被控訴人組合の決議内容が曖昧であり杜撰である旨論難するに帰すると解される。しかし、前掲乙第二二号証の一ないし三によれば、被控訴人の昭和四三年三月二二日の第四回総代会において、本件公共施設管理者負担金の額を五億八九二六万五〇〇〇円とする旨の事業計画変更の決議がなされたことは明確であり、控訴人らの右主張は理由がない。

五  同五について

控訴人らは、本件公共施設管理者負担金の増額について、事業計画の変更の外にあらためて他の議決機関の決議を要する旨主張する。しかし、前述のとおり、右負担金の額又は負担方法の変更は事業計画の変更として総会(総代会)の議決を経れば足りるのであつて、控訴人らの右主張は独自の見解に基づくものというべく、失当である。また、控訴人らは、昭和四三年三月二二日の被控訴人第四回総代会における保留地処分金の決定により右処分金が定まつたとして、保留地処分がなされたとすればその手続に違法がある旨主張するが、前掲乙第二二号証の一ないし三によれば、同日の総代会において被控訴人の事業計画に関し保留地処分金の額が決定されたとか変更されたとの事実は認められないのであり、単に保留地処分金を従前どおり一〇五〇万円として資金計画表に計上しているだけであるから、控訴人らの右主張はその前提を欠き、失当たること明らかである。

そうすると、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田尾桃二 南新吾 成田喜達)

物件目録、別図一、二〈省略〉

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